脳の仕組みを理解して効率的に記憶
記憶力を高めるには、まず脳が記憶をどのように処理するのか、その基本的なプロセスを知ることが近道です。記憶は、大きく分けて3つのステップで成り立っています。
- 記銘(エンコーディング): 新しい情報を取り込み、脳が処理できる形に変換するプロセス。いわば、情報を脳に「インプット」する段階です。
- 保持(ストレージ): 記銘された情報を、脳内に保存するプロセス。
- 想起(リトリーバル): 保持されている情報を、必要に応じて取り出すプロセス。これが「思い出す」という行為です。
多くの人が「記憶力がない」と感じるのは、このうち「記銘」のプロセスがうまくいっていないケースがほとんどです。ただ教科書を眺めているだけの「受動的な学習」では、情報は脳に十分にエンコードされません。脳は、情報に「意味付け」をしたり、「感情」が動いたり、「能動的」に関わったりした時に、それを「重要な情報」だと判断し、強く記銘する性質があるのです。
五感を活用したマルチモーダル学習法
では、どうすれば情報を強く「記銘」できるのでしょうか?その鍵は、「五感」をフル活用することにあります。脳は、複数の感覚から同時に情報を受け取ると、それらを関連付けて、より強固な記憶ネットワークを形成します。これを「マルチモーダル学習」と呼びます。
【五感を活用した学習法の例】
- 視覚と聴覚: 英単語を覚える時、ただ黙って書くだけでなく、声に出して発音してみる。単語の発音を聞きながら、その単語が使われている情景をイメージする。
- 触覚(運動感覚): 歴史の年号を覚える時、指で年号を空中に書きながら唱えてみる。数学の公式は、自分の手で何度も書いて証明のプロセスをなぞる。手書きは、キーボード入力よりも脳の広範囲を活性化させることが分かっています。
- 感情と関連付ける: 「1192(いいくに)作ろう鎌倉幕府」のような語呂合わせは、無機質な数字に面白いストーリー(感情)を結びつけることで、記憶に残りやすくする優れた方法です。
睡眠と復習が記憶定着のカギ
情報をしっかり記銘しても、それだけでは記憶は完成しません。脳にインプットされた情報は、特に「睡眠中」に整理され、長期的な記憶として定着(固定化)します。
そして、一度覚えたことも、何もしなければ時間と共に忘れていってしまいます。ドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウスの「忘却曲線」によると、人は学習した20分後には42%、1日後には74%も忘れてしまうのです。
この忘却に抗うための最も効果的な武器が「復習」です。特に、忘れかけるタイミングで行う「間隔反復(Spaced Repetition)」は、記憶を効率的に長期記憶へと変えることが科学的に証明されています。
【効果的な復習のタイミング】
回数 | タイミング |
---|---|
1回目 | 学習の翌日 |
2回目 | その1週間後 |
3回目 | その2週間後 |
4回目 | その1ヶ月後 |
このように、復習の間隔を徐々に広げていくことで、脳は「この情報は何度も使う重要なものだ」と認識し、記憶を強化していくのです。
まとめ
記憶力は、才能ではなく、科学的な知識に基づいたスキルです。
- 脳が記憶する仕組みを理解し、能動的に情報を処理する「記銘」を意識する。
- 五感をフル活用する「マルチモーダル学習」で、記憶に複数の入り口を作る。
- 記憶の定着に不可欠な「睡眠」をしっかり取り、「間隔反復」で効率的に復習する。
脳をだますのではなく、脳の性質をうまく利用する。それが、科学的な記憶術の本質です。