教育現場に於て、「指導する」という言葉の方がしっくりくるものの、私は幼稚園の園長であるので「援助する」現場が相当に多い。この「援助する」という言葉を掘り下げて考えてみようと思う。
昨日(10/6)は運動会の予行練習日だった。年長児は「体操大好き」という競技名の障害物競走に恒例として全員参加する。ピストルの合図で逆上がり→ボールつき10回→跳び箱3段の上で台上前転→約170センチの壁のぼり、頂上から飛び降りて前転→ゴール、という競技である。6人が一斉にスタートする。個人の得手不得手は様々であるから、教師はその能力に応じて「援助」をしなければならない。
例えば「逆上がり」を例に挙げる。何の助けも必要なく逆上がりをする子から、自分の体重を自分で支持できずに、尻をヨイショと持ち上げねばならない子、あと一歩で出来るようになるものの教師の片手でヒョイという支持が必要な子。
これらの子に対峙した時、教師は「その必要に応じて」援助をする。この「必要に応じて」というのが、「教師の勘と経験」によるものと思われている節がある。今回はそれを、なるべく「わかりやすいように言語化」して差し上げようと思う。ある程度は「分かったつもり」になれるとは思うが、同時に「解ってたまるか」とも思う。
先ず、逆上がりの概念を持っていない子には、逆上がりの概念を認知させる。鉄棒の握り方から、地面を蹴り上げ、鉄棒に自身の臍付近を引き付け、脚を鉄棒の向こう側に送り、上半身を地面に対して垂直方向に引き上げる。恐らく、幼児に言語で説明する馬鹿はいないとは思う。
やって見せつつ、擬態語を交えながら説明するのが一般的だろう。この調子で説明していくと私も読者も飽きるので、要点を集約する。
経験の浅い子や、能力・スキルの極めて未熟な子に対しては、握っている手を補助しつつ、脚を補助し、上体を補助することとなる。指導されている側の園児の方は気楽なもので、何もせんでも、最低限鉄棒を握っていれば、先生が「やってくれる」という状況である。この様に援助することを「ヘルプ」と呼ぶことにする。
あと一歩で出来るようになりそうな子に対しては、園児の尻をヒョイと持ち上げるか、園児の上体を起こす援助を行う。この様な援助を「アシスト」と呼ぶことにする。
逆上がりがほぼ出来る、若しくは出来る出来ないにムラがあるような子に対しては、「足や腹を鉄棒に近づければ出来るよ」など、適切なアドヴァイスで出来るようになる。この様な援助を「サポート」と呼ぶことにする。
「ヘルプ・サポート・アシスト」をもう少し掘り下げる。【ヘルプについて】例えば「ヘルパーさん」は、食事の介助から排泄のお世話まで、寝たきり老人でも懇親的に援助をしてくださる。また、生まれたての赤子は、乳房を口に近づけてやることで、初めて栄養を摂取することができる。言うなれば子にとって『至れり尽くせり』状態の援助が「ヘルプ」ということになる。【アシストについて】サッカーで言うと、『シュートを打てるパスを出す』ことを「アシスト」という。
このように、子があと一歩で出来るように環境を整えてやること、言うなれば子に「達成感を感じさせるためにお膳立てをしてやる」という援助が「アシスト」ということになる。【サポートについて】サッカーの「サポーター」は、選手に直接パスを出したり指導したりすることはないだろう。声援や、時にはブーイングにより、選手のやる気を鼓舞する役目がサポーターである。このように、子に声援や叱咤激励すること、言うなれば子に「やる気にさせる」という援助が「サポート」である。
大人(指導者)の介入度は「ヘルプ→アシスト→サポート」の順に小さくなっていく。子の側からみると「へルプ→アシスト→サポート」の順に自立していくこととなる。
ということは、大人(指導者)の側が今の援助は「サポート」だな、とか、この状態の子に対して今は「ヘルプ」で援助しているが、明日は「アシスト」に向けてみよう、という目を持つことが、子の自立にとって望ましいことがわかる。もちろん全ての援助をこのカテゴリーに厳密に分類することが目的ではない。現実的には「サポートに近いアシスト」だったり「ヘルプ寄りのアシスト」だったりすることもある。また、子にレッテルを貼ることも絶対に許されない。逆上がりにアシストが必要な子が、台上前転には全く援助を必要としない子だっている。個々に応じて、同時にその瞬間瞬間に応じて、指導者が「その子に最適だと信じた援助」をその「さじ加減」で行っている。その援助が「子の人生」にとって、「子を取り巻く家庭」にとって、「所属する学校」にとって満足度の高い援助を提供できるか否かが、指導者の「プロ」と言われる所以である。
あまり、プロの手の内を明かしたくないものなので、この辺りでお終いにするが、子育て中の者は勿論、あらゆる場面で指導などに携わる者は、この「ヘルプ・アシスト・サポート」の視点を持っていても、損はないと思う。